JOURNAL / ANESTHESIA
美容医療の麻酔は危険?麻酔事故を防ぎ、無痛を目指す。
美容医療では、
「誰が施術をするのか」はよく話題になります。
形成外科で研修した医師なのか。
美容外科の経験はどのくらいあるのか。
どんな専門医資格を持っているのか。
もちろん、どれも医師を選ぶうえで大切な情報です。
では、静脈麻酔や鎮静を受けるとき、
「誰が麻酔を管理するのか」を
考えたことはあるでしょうか。
麻酔は、薬を入れて眠ってもらえば終わりではありません。
呼吸が弱くなったら、いつ介入するのか。
気道が閉塞したら、どう開けるのか。
自発呼吸が止まったら、どう換気するのか。
血圧が下がったら、どう立て直すのか。
そして、そのようなことが起こる可能性を予測して、 できるだけ起こらないように先回りして準備する。
そこまで含めて、麻酔管理です。
麻酔科医は、ただ「眠らせる医師」ではありません。
起こり得ることを予測し、
リスクを減らし、
安全に手術ができる環境を整える専門家です。
美容医療の麻酔について、麻酔科認定医かつ美容外科専門医の立場から考えてみます。
01 / SEDATION & ANALGESIA
麻酔で最初に知ってほしいこと。
「鎮静」と「鎮痛」は別のものです。
美容医療の麻酔を考えるうえで、まず大切なのは、
「眠ること」と「痛くないこと」を分けて考えることです。
SEDATION
鎮静
不安を和らげたり、意識レベルを下げたりすること。 軽くリラックスした状態から、深く眠った状態まで、 鎮静にはさまざまな深さがあります。
ANALGESIA
鎮痛
施術による痛みを抑えること。 表面麻酔、局所麻酔、神経ブロック、鎮痛薬など、 痛みの種類や施術に合わせて方法を選びます。
眠っている = 痛くない、ではありません。
反対に、起きている = 痛い、でもありません。
たとえば、局所麻酔や神経ブロックで十分に痛みを抑えることができれば、 意識がある状態でも施術を受けることができます。
一方で、鎮静薬によって眠っているように見えても、 それだけで施術による痛みへの対策が十分とは限りません。
だから私は美容医療の麻酔を考えるとき、 「どのくらい鎮静する必要があるのか」と 「どのように鎮痛するのか」を、それぞれ別に考えます。
麻酔は「眠らせる方法」を選ぶことではありません。
鎮静と鎮痛、二つの軸を組み合わせて設計します。
02 / DEPTH OF SEDATION
「静脈麻酔」はひとつの深さではありません。
鎮静には、浅い状態から深い状態まで連続した段階があります。 同じ薬を使っていても、投与量や組み合わせ、患者さんの反応によって、 鎮静の深さは変わります。
MINIMAL SEDATION
最小限の鎮静
リラックスしている状態。 呼びかけには普通に反応し、 呼吸や循環は基本的に保たれています。
MODERATE SEDATION
中等度鎮静
眠気は強くなりますが、 呼びかけや軽い刺激には反応できる状態。 通常は自発呼吸が保たれます。
DEEP SEDATION
深い鎮静
簡単な呼びかけには反応しにくくなり、 強い刺激で反応する程度の状態です。 より深くなると自分で気道を保てなくなったり、 呼吸を助ける必要が生じたりすることがあります。
GENERAL ANESTHESIA
全身麻酔
いわゆる一般の手術室で行われる麻酔で痛み刺激でも覚醒しない状態。 自力で気道を保つ想定はなく、気道確保や人工呼吸が必要になります。
SEDATION CONTINUUM
鎮静は、この間を連続的に移動します。
ここで大切なのは、 「静脈麻酔」という名前だけでは、 患者さんがどの深さの鎮静を受けるのかは分からないということです。
そして、鎮静は必ずしも予定した深さでぴたりと止まるわけではありません。 薬に対する反応には個人差があり、 複数の薬剤を組み合わせることで作用が強く出ることもあります。
中等度の鎮静を予定していても、 予想より深い鎮静状態になる可能性があります。
だから、麻酔をする医師に必要なのは
「予定した深さまで眠らせる技術」だけではありません。
予定より深くなった患者さんをそこから安全に戻せること。
鎮静が深くなったとき、 最初に問題になりやすいもののひとつが「呼吸」です。
03 / BREATHING
麻酔で怖いのは、
「眠ること」ではありません。
鎮静が深くなると、 気道が狭くなったり、自発呼吸が弱くなったり、 ときには呼吸が止まることがあります。
呼吸が止まった時の手があるか。
それが麻酔管理です。「麻酔で呼吸が止まる」と聞くと、 とても恐ろしいことのように感じるかもしれません。
もちろん、呼吸抑制は軽く考えてよいものではありません。 しかし麻酔を管理するうえでは、 呼吸が弱くなる可能性をあらかじめ想定し、 必要なときに対応できる技術 が大切です。
本当に問題なのは、 呼吸が弱くなっていることに気づかなかったり、 気づいても適切な対応ができず、 低酸素の状態が続いてしまうことです。
WHEN BREATHING BECOMES WEAK
呼吸が弱くなったとき、何を見るか。
術前からリスクを想定した麻酔計画
顔立ち、喫煙歴、既往歴、麻酔歴などから 麻酔リスクをあらかじめ把握し、 麻酔計画を立てます。
変化に気づく
呼吸の音や胸郭の動きから、 気道や呼吸の状態を把握します。 機械の数値だけを見るのではなく、 酸素化や換気の変化も確認しながら、 呼吸が崩れ始めていないかを判断します。
気道なのか呼吸なのか、原因を把握する
酸素化の数値が落ちたとき、 原因が空気の通り道にあるのか、 呼吸する力が弱くなっているのかを見極め、 原因に応じて対応します。
気道を開く
舌根沈下などで気道が狭くなっている場合には、 頭位や下顎の位置を調整し、 まず空気の通り道を確保します。
呼吸が弱いなら換気する
自発呼吸だけでは十分な換気ができなければ、 マスクを使って呼吸を補助します。
次の気道確保へ進む
マスク換気だけで十分な酸素化・換気を 維持できなければ、 状況に応じて声門上器具や気管挿管など、 次の気道確保を考えます。
麻酔科医には、その先の手があります。
THE TIMING MATTERS
大切なのは、「何をするか」だけではなく、
「いつ判断し、動くか」。
呼吸が完全に止まるまで待つのではありません。 小さな変化を見ながら、 今は経過を見てよいのか、 気道に介入するのか、 換気を始めるのか、 次の気道確保へ進むのかを判断します。
この 「どこで動くか」という勘所 も、麻酔管理に必要な技術のひとつです。
麻酔科医が目指しているのは、 「絶対に呼吸を弱くしない麻酔」ではありません。
起こり得る変化を予測し、先回りしてリスクを減らす。
それでも呼吸が弱くなれば、早く気づいて介入する。
そして必要なら、患者さんの呼吸を支える。
何も起こらないことを祈るのではなく、
起きる想定で立て直せるところまで準備しておく。
04 / MANAGEMENT
麻酔は、「何を使うか」だけでは決まりません。
同じ麻酔薬を使っていても、 患者さんの状態や手術内容、 投与する量やタイミングによって 麻酔の深さや呼吸への影響は変わります。
薬を入れることと、麻酔を管理することは別。
美容医療で使われる鎮静薬や鎮痛薬には、 それぞれ特徴があります。
しかし、安全な麻酔を考えるときに 大切なのは、 「何の薬を使うか」だけではありません。
どのくらいの量を使うのか。 どのタイミングで追加するのか。 今の呼吸や循環の状態はどうなのか。 手術刺激はどの程度なのか。
その時々の変化を見ながら、 麻酔の深さを調整していく必要があります。
WHAT WE MANAGE
麻酔中に見ていること。
麻酔の深さ
必要以上に深くなっていないか、 逆に痛みや不安が強くなっていないかを確認しながら、 麻酔薬の量を調整します。
気道と呼吸
気道が狭くなっていないか、呼吸の速さや深さ、酸素化や換気に変化がないかを確認します。
血圧・脈拍・循環
麻酔薬や手術刺激による 血圧や脈拍の変化を確認し、 必要に応じて対応します。
手術の進行
今どの操作をしているのか、 このあとどの程度の刺激が加わるのかも、 麻酔の調整には重要です。
覚醒までの流れ
手術が終われば麻酔管理も終わり、 というわけではありません。 呼吸や意識が十分に戻り、 安定していることを確認します。
PREPARATION
起こってから考えるのではなく、起こる前から準備しておく。
麻酔中に呼吸や循環が変化する可能性があるなら、 その時に必要となる酸素投与、 換気、気道確保などを あらかじめ想定しておく必要があります。
使う可能性のある器具や薬剤を準備し、 次に何をするかを考えた状態で 麻酔を始めます。
何かが起きてから準備するのではなく、 起こり得ることを先に想定しておく。
麻酔の安全性は、 「どの薬を使ったか」という一項目だけでは 評価できません。
薬を選ぶ⇒ 変化を見る⇒ 必要なら介入する⇒ そして、覚醒まで確認する
その一連の流れ全体が、 麻酔管理だと考えています。
05 / RECOVERY
覚めるまでが、麻酔です。
手術が終わって、麻酔薬を止めたら終わり。 というわけではありません。
麻酔後は、意識の戻り方だけでなく、 呼吸や血圧、脈拍、吐き気やふらつきなどを確認します。
そして、十分に回復したことを確認してから ご帰宅いただきます。
06 / CURRENT ISSUES
今の美容医療における、麻酔の問題点と懸念点。
美容医療では、 局所麻酔だけでなく、鎮静薬や鎮痛薬を使用する場面があります。
一方で、美容外科・美容皮膚科の診療の中には、 麻酔や全身管理を体系的に学ぶ仕組みが 十分に組み込まれているとは限りません。
美容外科・美容皮膚科で働いていると、 手術や注入、レーザー、RFなど、 美容医療について学ぶ機会はたくさんあります。
しかし、 鎮静中の呼吸管理や気道確保、 循環管理、急変時の対応については、 美容医療そのものとは別の知識と訓練が必要です。
私自身、美容医療と麻酔の両方に携わってきて、 この二つの領域の間に「教育の隙間」がある と感じています。
CONCERNS
私が感じている、4つの懸念。
麻酔・全身管理を学ぶ機会が少ない
美容医療の技術を学ぶ機会は多くても、 麻酔や気道管理、全身管理について 継続的・体系的に学べる環境は限られています。
「麻酔を使わない」方向へ偏ることがある
麻酔によるリスクを避けるため、 鎮静を避ける、麻酔を使わないという方向へ 判断が偏ることがあります。
リスクを避けることは大切ですが、 患者さんの痛みや不安を軽減することも 医療の大切な要素です。
「薬を使える」と「麻酔を管理できる」が混同されやすい
鎮静薬を投与して眠ってもらうこと自体は、 麻酔管理の一部分にすぎません。
気道が狭くなったらどうするのか。 自発呼吸が弱くなったらどうするのか。 マスク換気で維持できなければ、 その次に何をするのか。
麻酔薬を投与できることと、 その結果起こった変化を立て直せることは、 同じではありません。
美容医療では麻酔が「脇役」になりやすい
美容医療で注目されるのは、 どうしても手術方法や仕上がり、 ダウンタイムなどです。
麻酔は治療そのものではないため、 患者さんからも医療者からも 見えにくい部分になりがちです。
しかし麻酔で扱うのは、 意識、呼吸、循環。
目立たない領域だからといって、 軽く扱ってよいものではありません。
07 / PROPOSAL
麻酔科医として、美容医療に思うこと。
理想をいえば、 手術をする医師と麻酔を管理する医師は、 分かれている方がよいと考えます。
執刀医は手術に集中し、 麻酔を担当する医師は 患者さんの呼吸や循環、麻酔の深さを見続ける。
ただし、美容医療のすべての手術で この体制を整えることは現実的ではありません。
REALITY
必要なのは、リスクに応じた麻酔体制。
長時間の手術や侵襲の大きな手術では、 麻酔科医による麻酔管理を検討すべき場面があります。
一方で、比較的小さな美容手術まで、 すべて麻酔科医が担当する体制を整えることは 現実的には難しいでしょう。
だから私は、 「すべての美容手術に麻酔科医を」 ではなく、 麻酔の深さと手術の侵襲度に応じた 安全体制を作ること が大切だと考えています。
IV SEDATION
静脈麻酔を受けるなら、麻酔の体制も見てほしい。
静脈麻酔では、 使用する薬剤や投与量によって、 意識だけでなく呼吸や気道にも 影響が及ぶことがあります。
そのため、 執刀医自身が麻酔管理に 十分習熟していることが望まれます。
そうでない場合には少なくとも、 麻酔について相談でき、 必要なときに対応できる麻酔科医が 院内にいる施設 を選ぶことも、 安全性を考えるうえで一つの目安になると考えています。
CHECK POINT
静脈麻酔を受ける前に、 確認してほしいこと。
誰が麻酔を管理するのか
手術中、誰が患者さんの呼吸や循環を 見ているのかを確認します。
どのようなモニタリングを行うのか
麻酔の深さに応じたモニタリングが 行われているかを確認します。
呼吸が弱くなったときに対応できるのか
酸素投与だけでなく、 気道確保や換気が必要になった場合の 準備があるかも重要です。
緊急時の体制があるのか
必要な薬剤や器具があり、 急変時に対応できる体制になっているかを確認します。
術後まで管理されるのか
手術終了だけでなく、 十分に覚醒し、 安全に帰宅できるところまで確認されるかも大切です。
FOR AESTHETIC MEDICINE
そして、美容医療を提供する側にも。
美容医療はこの十数年で大きく発展しました。
手術の技術も、医療機器も、注入治療も進歩し、 それらを学ぶ機会も増えています。
私は、その中にもう一つ、 「麻酔・全身管理を学ぶ機会」 も増えてほしい と思っています。
すべての美容外科医が 麻酔科医になる必要はありません。
でも、鎮静薬を使うのであれば、 呼吸がどう変化するのかを知る。
呼吸が弱くなったとき、 何をすべきかを知る。
自分で対応できない麻酔なら、 対応できる人と一緒に行う。
美容医療の技術を学ぶのと同じように、 麻酔について学ぶ機会が もっとあってよいと考えています。
美容医療は、
命を救うための医療ではありません。
だからこそ、 美容医療を受けることで 命が危険にさらされることがあってはならない。
きれいになるための医療だからこそ、
安全であることは、そのすべての前提です。
08 / AT an clinic
麻酔科医が本気で関わる美容医療麻酔。
an clinicでは、 美容外科手術の麻酔はもちろん、 「怖い」「痛いのが苦手」という方にも、 麻酔を使った治療をご提案しています。
痛みに強い人に合わせるのではなく、
その人に合わせて、麻酔を考える。
ANESTHESIA
an clinicの麻酔について
手術や処置で使用する麻酔と、 当院の麻酔に対する考え方をご紹介します。
SKIN TREATMENT × ANESTHESIA
麻酔を使った美肌治療
肌育注射など、 痛みが気になる美肌治療を 麻酔と組み合わせる方法について。
麻酔は、たくさん使えばよいものでも、 使わないほどよいものでもありません。
必要な人に、必要な麻酔を。
安全性を第一に、 痛みや不安にも配慮した美容医療を ご提案します。
OUR VISION
an clinicが目指す、
痛みに配慮した美容医療。
美容医療は痛いものだから、我慢する。
an clinicでは、その常識を変えたい。
局所麻酔、ブロック麻酔、鎮静、静脈麻酔など、 麻酔科で培った知識と技術を美容医療に活かし、 できるだけ痛くない治療、 無痛に近い美容医療を目指します。
手術だけではありません。 肌育注射などの注入治療や、 小さな美容施術でも、 痛みや恐怖が強い方には 麻酔を組み合わせた方法を検討できます。
もちろん、麻酔を深くすればよいわけではありません。 治療内容や全身状態に合わせて、 必要な麻酔を必要なだけ。
CONSULTATION
痛みや麻酔が不安な方へ。
「この治療は眠って受けられる?」
「痛みをできるだけ少なくしたい」など、
麻酔についてもお気軽にご相談ください。
治療内容や全身状態を確認したうえで、 適した麻酔方法をご提案します。


